細菌・抗菌薬まとめ①〜GPCとGNR〜
抗菌薬って種類が多くて覚えるのが大変、、、
そう感じている医学生・研修医のお方は多いのではないでしょうか?
本記事では、臨床での検出頻度が高く、種類も多い、覚えにくい、グラム陽性球菌(Gram Positive Cocci ; GPC)とグラム陰性桿菌(Gram Negative Rods ; GNR)に絞って、細菌学的な分類から、βラクタム系を中心とした抗菌薬治療まで、系統的にを解説していきます。
とりあえずGPCとGNRを覚えよう!
はじめに
具体的なGPCやGNRの説明の前に、まずは、分類の前提となるグラム染色について解説します。グラム染色による大別が、無数にある細菌の種類を整理する上で鍵となります。
また、本記事では抗菌薬(特にβラクタム)を中心に覚え方などを解説していますので、βラクタムの種類を軽く列挙します。
グラム染色とは?
グラム染色は、細菌を顕微鏡で観察するために染色する処置です。染色された細菌は、顕微鏡で形や色を識別できるようになります。
細菌の分類としては、グラム染色での染まり方で、大きくグラム陽性菌とグラム陰性菌の2種類に分けられます。
グラム染色は、以下のような、大きく3つの工程で成り立っています。
①クリスタル紫という染色液を用いて細菌の細胞壁にあるペプチドグリカン層を青色に染める
↓
②アルコールでペプチドグリカン層の薄い細菌を脱色
↓
③フクシン希釈液やサフラニン液で脱色された細菌のみを赤色に染める
抗菌薬のおさらい
臨床で使われる頻度の高い抗菌薬を大きく分類すると以下のように分けられます。さらに詳しい分類は以下のリンクを参照してください。
- βラクタム系:スペクトラムが狭い順に、ペニシリン系→セフェム系→カルバペネム系の3つ
- グリコペプチド系:バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリドが代表的
- キノロン系:ニューキノロン系(レボフロキサシンなど)、フルオロキノロン系
- アミノグリコシド系:リボソーム30S/50S阻害。カナマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシンなど
- マクロライド系:リボソーム50Sのみ阻害。静菌的に作用。古い順に、エリスロマイシン→クラリスロマイシン→アジスロマイシン
ペニシリン系では、ペニシリンG→アンピシリン→ピペラシリンの順に新しく、セフェム系では、第一から第四世代にかけて新しくなっています。
GPC
GPCは、グラム染色において、アルコールで脱色されにくいグラム陽性菌(クリスタル紫で青色に染まったままの細菌)のうち、形状的に球菌に分類される細菌群の総称です。
GPCは、ヒトの体に常に存在する常在菌も多いですが、主にヒトの皮膚や口腔内、鼻腔に存在しているという認識で良いと思います。常在菌が、血液や肺などの本来存在するべきでない場所で増殖すると、感染症を引き起こしてしまいます。
GPCは、顕微鏡で観察すると集簇した塊を作るグループと鎖のように連鎖するグループが存在し、形状的な分類として、前者をCluster、後者をChainと呼びます。
- Cluster
- Chain
それぞれの特徴やさらに詳細な分類について詳しく解説していきます。
Cluster
clusterという言葉には、コロナウイルスのクラスター感染という言葉で聞き馴染みがあるように「集団」や「塊」という意味があります。 GPCのClusterは、文字通り球菌同士が互いに集簇しています。
Clusterは主に、以下の2つに分類されます。
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
- コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase-negative staphylococcus;CNS)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
黄色ブドウ球菌は、健康な成人の鼻腔の30%、皮膚の20%に存在する細菌です。一般的なブドウ球菌の中では最も危険な細菌とされています。多くは皮膚感染症を引き起こしますが、下気道に侵入して肺炎を引き起こすことや、心臓や骨などにも血流に乗って感染することがあります。
皮膚感染症の場合、毛包炎、膿痂疹、膿瘍(せつ、よう)、蜂窩織炎、中毒性皮膚壊死融解症、熱傷様皮膚症候群を引き起こします。
蜂窩織炎は『2S』で覚える!
Staphylococcus(ブドウ球菌) & Streptococcus(レンサ球菌)
肺への感染の場合、発熱、息切れ、血痰を伴う咳嗽を特徴とする肺炎を引き起こします。また、膿瘍を形成し、胸膜に侵入した場合は、膿胸と呼ばれます。
血流への感染の場合、心臓では感染性心内膜炎(infectious endocarditis ; IE)を引き起こします。骨では、骨髄炎を引き起こします。特に人工弁や人工関節を使用している患者においてよく見られる症状です。
抗菌薬の耐性を持つか否かで、さらに以下の2種類に分類されます。
- メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus ; MSSA)
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus ; MRSA)
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus ; MSSA)
その名の通り、メチシリンが効く黄色ブドウ球菌です。
第一世代セフェムであるセファゾリンを使用します。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus ; MRSA)
その名の通り、メチシリンが効かない黄色ブドウ球菌です。
β-ラクタムが効かないため、バンコマイシンを使用します。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase-negative staphylococcus;CNS)
血液を凝固する作用のあるコアグラーゼ(フィブリノゲンをフィブリンに変化させるトロンビンを活性化させる酵素)を持たないブドウ球菌で、主に表皮ブドウ球菌が大半を占めています。黄色ブドウ球菌と比べると毒性は低い菌です。
メチシリン感受性CNS(MS-CNS)
MSSAと同様に、メチシリンが効くCNSです。
第一世代セフェムであるセファゾリンを使用します。
メチシリン耐性CNS(MR-CNS)
MRSAと同様に、メチシリンが効かないCNSです。
β-ラクタムが効かないため、バンコマイシンを使用します。
SA(黄色ブドウ球菌)だろうと、CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)だろうと、、、、
MS〜〜は、感受性あるからセファゾリン!!
MR〜〜は、耐性あるからバンコマイシン!!
Chain
chain という言葉は、鎖という意味です。球菌が鎖のように連鎖することからレンサ球菌と呼ばれます。
Chain(レンサ球菌)は、3種類に分類されます。
- long
- short
- double(双)
※あくまでも直感的に覚えやすい分類ですので、実際の細菌学的な分類ではありません
long
long chain つまり「長い連鎖」を形成するGPCは、Streptococcus属と呼ばれます。いわゆる、『溶連菌』というやつです。溶連菌は溶血性レンサ球菌の略称ですが、溶血性(赤血球を破壊する能力)を示すことが知られており、溶血の形式(完全溶血or不完全溶血)によって以下の2種類に大別されます。
- α溶血性レンサ球菌
- β溶血性レンサ球菌
αが不完全溶血、βが完全溶血。 α溶連菌の血液寒天培地は、緑色になる!
α溶血性レンサ球菌
α溶連菌は、α-Streptococcus、緑色レンサ球菌とも呼ばれます。
主に口腔内に潜んでおり、抜歯後の傷口から血流に乗って、亜急性心内膜炎(IE)を引き起こすことで知られています。
α溶連菌は、さらに細かな種類に分けられていますが、まず一番に覚えることは、ペニシリンとセフェム系抗菌薬で十分ということです。これは、β溶連菌でも同様です。
β溶血性レンサ球菌
β溶連菌は、以下の3種類に分類されます。
- A群連鎖球菌(Group A Streptococcus ;GAS)
- B群連鎖球菌(Group B Streptococcus ;GBS)
- C,G群連鎖球菌(Group C,G Streptococcus ;GCS,GGS)
GASは、小児咽頭炎や、いわゆる扁桃炎を引き起こすことが広く知られています。GBSは女性の尿道に寄生しており、産道感染による新生児の髄膜炎の原因菌になります。GCS、GGSは、頻度は稀ですがtokisick shock-like syndrome(TSLS)を引き起こすことで知られています。
しかし、ともかく、Streptococcusの抗菌薬は、ペニシリンとセフェム系抗菌薬で十分です!
double(双)
doubleは、その名の通り2つの球菌が連鎖しているGPCで、グラム陽性双球菌=肺炎球菌でOKです。
実は肺炎球菌もStreptococcus属なのですが、long chain(溶連菌)と異なる抗菌薬のアプローチが必要です。(なので分けました)
ズバリ、投与すべき抗菌薬は、第3世代セフェムであるセフトリアキソンとバンコマイシンの併用です!
肺炎球菌肺炎は、基礎疾患のない成人の肺炎(市中肺炎)の中で最も頻度が高いです。それに次いで第2位が、インフルエンザ桿菌と、GNRがランクインしています。
つまり、市中肺炎を見たらGNRをカバーする必要があるということです。
正直、市中肺炎の肺炎球菌肺炎自体は、ペニシリン系抗菌薬が第一選択です。※1
しかし、市中肺炎の原因菌の同定を待っている間に患者症状は悪化してしまうかもしれません。なので、広域スペクトラムの抗菌薬を用いてエンピリックに対応する必要があるので、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用なのです。
起因菌の同定ができたら、ペニシリン系にデエスカレーションすることも検討されます。
※1 高齢者や慢性呼吸器疾患を有する患者、ペニシリン耐性肺炎球菌感染の場合は、レスピラトリーニューキノロンの選択を考慮します。
short
short chainつまり「短い連鎖」を形成するGPCは、腸球菌で、Enterococcus属に分類されます。
腸球菌(Enterococcus属)に共通の特徴は、セフェム系が効きません!
さらに、ペニシリン系への感受性で2種類に分けられます。
- E .faecalis(フェカーリス)
- E .faecium(フェシウム)
E .faecalisはアンピシリンが効き、E .faeciumはアンピシリン耐性あるのでバンコマイシンが有効です。
GPCのまとめはここまで!
次の章からは、GNRをまとめていきます!
GNR
GNRは、ペプチドグリカン層が薄く、グラム染色においてアルコールで脱色されやすいグラム陰性菌のうち、桿状の細菌群の総称です。
GPCは常在菌として、主に皮膚や口腔内に存在していましたが、GNRも常在菌が多く存在すます。分布部位としては、消化管、胆道系、尿路などが多いです。
GNRは種類が多く覚えるのがなかなか大変です。本記事では、「抗菌薬の適応を考える上での覚えやすさ」を基準に、代表的なGNRをピックアップして紹介します。
これだけは押さえておきたいGNRは、以下の2パターンです。
- P・E・K
- S・P・A・C・E
それぞれは、GNRの学名の頭文字をとったものです。PEKは市中感染を起こしやすいGNRで、SPACEは院内感染を起こしやすいGNRです。あくまでも覚えやすさを重視した分け方ですので、細菌学的な分類ではありません。
市中=P・E・K(ペック)
院内=S・P・A・C・E(スペース)
PEK
PEK(ペック)は、市中感染つまり健康的な成人への感染を起こしやすい細菌です。PEKに含まれる細菌は、以下の3種類です。
- Proteus(プロテウス)
- Escherichia coli(大腸菌)
- Klebsiella(クレブシエラ)
Proteus(プロテウス)
ヒト感染症の原因としては、P.mirabilisが大半を占めます。プロテウス桿菌は、ウレアーゼという尿素分解酵素を産生し、産生環境でも生存できるため、主に尿路感染症との関連があります。
Escherichia coli(大腸菌)
Escherichia coliは、いわゆる大腸菌のことです。大腸菌には、健康なヒトの腸管内にも存在する無害な一群と、毒素を産生し下痢を引き起こす有害な一群が存在します。
下痢を引き起こす大腸菌は5つの型に分けられています。
- EPEC(腸管病原性大腸菌)/ETEC(腸管毒素原生大腸菌)/EIEC(腸管侵入性大腸菌)/EHEC(腸管出血性大腸菌)/EAggEC(腸管凝集性大腸菌)
特にEHECは、ベロ毒素という毒素を産生し、小児で溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症などの重篤な疾患を引き起こすので注意が必要です。
一方、腸管内で下痢を起こさない大腸菌の一群は基本的に無害です。しかし、腸管内の無害な大腸菌も腸管外に迷入した時に、肺炎、胆道感染症、腹膜炎、尿路感染症、新生児髄膜炎などの病原性を示します。(異所性感染)
※今回は、抗菌薬基準での分類ですので、詳しくは別記事で解説します。
Klebsiella(クレブシエラ)
Klebsiella pneumoniaeによるクレブシエラ肺炎が、代表的ですが、腹部感染症や尿路感染症も引き起こします。しばしば院内感染も引き起こし、下記で紹介するセラチア属 Serratia、エンテロバクター属 Enterobacterと互いに近い関係にあります。(症状や感染経路も似ています)
PEKの抗菌薬
PEKに対しては、ペニシリン系(ピペラシリン)やセフェム系が効きます。
もちろん、スペクトラムが広いカルバメネムも効きます。
とにかく覚えることは、P(Proteus)とE(大腸菌)に関しては、ペニシリン系(アンピシリン)効くことです!
アンピシリンが効くのは、GPC +PE(ぺ)まで!(Kには効かない)
SPACE
SPACEは院内感染、つまり入院患者や高齢者など、免疫力の低下した人への感染を引き起こしやすい細菌です。SPACEに含まれる細菌は、以下の5種類です。
- Serratia marcescens(セラチア)
- Pseudomoenus(緑膿菌)
- Acinetobacter(アシネトバクター)
- Citrobacter(シトロバクター)
- Enterobacter(エンテロバクター)
さらに、抗菌薬への感受性を分かりやすくするために、
・SCE:AmpC(アンプ・シー)というβラクタマーゼの一種を持つ腸内細菌
・PA:カルバペネマーゼという酵素を持つブドウ糖非発酵菌(偏性好気性菌)
という分類をしています。
AmpC産生菌は、セフェム系に対しても耐性を獲得してしまうので非常に厄介です!!
Serratia marcescens(セラチア)
クレブシエラ属 Klebsiella、エンテロバクター属 Enterobacter、セラチア属 Serratiaの細菌は、互いに近い関係にある GNRで、ときに病院や長期療養施設で尿路感染症や気道感染症を引き起こすことがあります。
Pseudomoenus(緑膿菌)
緑膿菌は、水まわりなど生活環境中に広く常在しますが、健常者には通常、病原性を示さない弱毒細菌の一つです。しかし、ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェムに自然耐性を示し、テトラサイクリン系やマクロライド系などの抗菌薬にも耐性を示す傾向が強く、古くより、感染防御能力の低下した患者において、日和見感染症の起因菌として問題となっています。また、緑膿菌の中にはカルバペネマーゼを有する株も存在し、様々な抗菌薬に耐性を持つことから多剤耐性緑膿菌(MDRP)と呼ばれています。
Acinetobacter(アシネトバクター)
Acinetobacter baumanniiによる感染症が全体の約80%を占めます。
Citrobacter(シトロバクター)
尿路感染が主体だが、さまざまな感染症を呈します。
Enterobacter(エンテロバクター)
クレブシエラ属 Klebsiella、エンテロバクター属 Enterobacter、セラチア属 Serratiaの細菌は、互いに近い関係にある GNRで、ときに病院や長期療養施設で尿路感染症や気道感染症を引き起こすことがあります。
SPACEの抗菌薬
SPACEの抗菌薬を考える上では、P(緑膿菌)をカバーできるかが焦点になります。
ペニシリン系では、ペニシリンGとアンピシリンではPカバーできません。ピペラシリンがSPACE全てに効きます。
セフェム系では、第一から第三世代までは、Pカバーできません。第四世代セフェム(セフェピム)がSPACE全てに効きます。
ただし、第三世代セフェムは、SCEまでは、カバーできます。
復習におすすめの書籍
主要なGPC及びGNRについてまとめましたが、最後に各種抗菌薬への感受性を一気にまとめた書籍「感染症まるごとこの一冊」矢野晴美 著 がおすすめです!
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